私は本邦で乳癌診療の黎明期を創り上げた本学旧外科学第二講座に入局し、現在至るまで一貫して乳癌の研究や診療に携わってきました。臓器別講座再編に伴い乳腺外科学講座が新設され、2017年2月1日付けで初代主任教授に就任いたしました。
乳腺外科学は、がん検診、診断、外科治療、薬物療法、緩和療法、放射線療法、理学療法、がんゲノム医療、がん患者と家族の支援活動などを通じて癌の集学的治療を体系的に学ぶことができる重要な分野です。また、乳癌を用いた研究は基礎医学と臨床医学の橋渡し研究としても重要な位置を占めており、先端診断技術、新規薬物療法の開発と感受性、治療効果の予測マーカーの探索、新規抗癌剤や分子標的治療薬の創薬など、今後の癌治療における様々な革新的技術開発には必要不可欠の分野でもあります。私に課された使命は、そうした乳腺外科学の教育や研究を通じて腫瘍外科を体系的に学べる教室を運営することにより、癌診療における多くの指導者を内外に輩出することと考えています。
当教室では以下の目標を掲げております。
教育:本学は都道府県がん診療連携拠点病院として地域におけるがん診療の中心的役割を果たすだけでなく、ふくしま国際医療科学センターや臨床研究センターと連携し最新の集学的がん診療を実現する専門の教員を数多く揃えています。乳腺外科学講座はそれらの診療科や部門と連携し、年間約1000例の乳癌症例を有する本学および県内外の関連施設全体で乳腺専門医の育成を加速します。
研究:本学の特徴である豊富な乳癌手術サンプルを用いて、新規抗癌剤・抗体医薬標的分子の薬剤感受性や創薬などの分野で基礎研究を継続します。薬物療法の治療効果予測マーカーや乳癌サブタイプ鑑別キットなど、革新的技術開発を背景にした癌のテーラーメード医療を推進します。
診療:本学は地域から大きな信頼と期待を寄せられ、県内の乳癌診療における中心的役割を果たしています。こうした現況は本学の長い歴史の中で少しずつ培われてきた成果ですが、今後は乳癌患者を中心に多職種が集結し質の高いチーム医療を実践することで、より専門的で人間味あふれる乳癌診療体制の構築に尽力します。
震災後の復興で竹のように撓るレジリエンスを示した本学において、今こそすべての教員、研究者、職員が一丸となって、「人を救い、人を育て、人を残す」、ここ福島の地で産学官が一体となった独自のしくみを創造し、解のない医療の現場でがんと闘う患者と家族の心に寄り添い、「生き抜く力」を与えることができるような高い倫理観を持った外科医の教育に努めてまいります。